早期栄養介入加算関連の栄養管理をまとめた2回目の記事になります。
参考にした日本集中治療医学会「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」のうち、
今回は「病態別栄養療法」編。
個人が勝手にまとめた記事になりますので、直接業務で関わる場合は、日本集中治療医学会「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」を参照されることをお勧めします。本記事は参考程度でお願いします。
病態別栄養療法
呼吸不全
- ARDS患者に対しては、n-3系脂肪酸(EPA)、γリノレン酸、抗酸化物質を強化した経腸栄養剤(オキシーパ® )を使用。しかし近年その有効性の評価は低下してきている。※現在、オキシーパ®は販売中止
- 一方で急性呼吸不全を伴う患者に対しては,炭水化物量を抑えた高脂肪組成栄養剤は使用しないことを弱く推奨
- プルモケア®は脂質の呼吸商が低値のため動脈血炭酸ガス分圧の上昇を防ぎ、1.5 kcal/mLと高エネルギーであるため水分負荷を回避できる ※臨床的効果は十分には検討されていない
ARDS(急性呼吸窮迫症候群)
肺炎や敗血症などがきっかけとなって、重症の呼吸不全をきたす病気。さまざまな原因によって肺の血管透過性が進行した結果、血液中の成分が肺胞腔内に移動して肺水腫を起こす。
現在この病気の原因は、直接肺を障害するものと、間接的に肺を障害するものに大別される。直接肺を障害するものとして、肺炎や胃酸の誤嚥、肺挫傷、溺水などが挙げられ、間接的に肺を障害するものとして、敗血症や重症な外傷、大量輸血などが挙げられる。
急性腎障害(AKI)
- 標準的な経腸栄養剤を使用する ※著しい電解質異常を伴う場合は、腎不全用の特殊栄養剤(リン酸やカリウムなどを標準栄養剤より低くしたもの)の使用を考慮することを弱く推奨
- 蛋白およびエネルギーの投与は、標準的なICU推奨事項に従うことを弱く推奨
- BUNが上昇するからといって蛋白投与量を減らすことはしない
- 血液浄化療法施行中は蛋白喪失量を考慮し、1.5~2.0g/kg/dayの蛋白投与が必要
- 腎代替療法を避け、その導入を遅らせるために、蛋白投与量を制限してはならない
memo✎
- 持続的腎代替療法中は,約10〜15 g/dayのアミノ酸が喪失する
- 腎代替療法を施行している患者に対して,蛋白投与量が1 g/kg/day未満の場合には,窒素欠乏状態が悪化することがある
- 欧米の研究では、「持続的腎代替療法中の患者には、蛋白喪失量を考慮して1.5〜2.0 g/kg/dayの蛋白質を投与するべきである」と指摘されている。 ※欧米で報告されている持続的腎代替療法中の血液浄化量は本邦で保険承認されている血液浄化量と比較して多いことに注意
肝不全
■慢性肝障害
ガイドライン上の定義:「肝硬変など慢性肝疾患の重症病態」
• 一般的な栄養アセスメントは、腹水貯留、血管内脱水、浮腫、門脈圧亢進、低アルブミン血症などの合併症により不正確。
• 通常の経腸栄養剤を使用してよい。疾患を伴う重症患者において、BCAAを強化した経腸栄養剤が一般的な経腸栄養剤に比べて予後を改善することを示すエビデンスはない
• 肝性脳症の予防目的に蛋白制限を行わない
memo✎
- 長期間の静脈栄養は肝障害の悪化に関連し、敗血症や凝固異常、さらには死を招く。栄養に関連する胆汁うっ滞は通常、長期間の静脈栄養に伴って生じる
- RCTの結果から,12か月あるいは24か月にわたる長期間のBCAA顆粒の経口投与が肝障害の進行を遅らせたり、無病生存期間を延長したりする可能性が示唆されている。
- 一般的な治療に抵抗性の肝性脳症の患者において、BCAAを強化した経腸栄養剤は一般的な
組成の経腸栄養剤に比べて昏睡の程度を改善する可能性がある 。
一般的な栄養アセスメント
SGA:年齢、性別、体重変化、消化器症状、食物摂取状況の変化、機能性(自立度)、基礎代謝亢進状態、るいそうや浮腫(上腕三頭筋部皮下脂肪厚や上腕筋肉周囲など)、腹水など。
栄養障害にとどまらず、創傷の治癒遅延や感染症などのリスクのある患者を正確に予測できるとされる。
ODA:SGAで栄養障害があると判断された場合に行うもの。血液化学データや尿生化学検査をはじめとした各種の検査データを基に、栄養状態を判断する。
(参考:「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」)
■急性肝不全
ガイドライン上の定義:「劇症肝炎や肝移植待機中などの重症病態」
- 急性肝不全の患者に対してもチューブによる経腸栄養を行うべき。肝不全用の栄養剤で推奨できるものはない
- 劇症肝炎では低血糖を発症しやすく、適宜ブドウ糖投与を行うアンモニア処理能が低下しているため、アミノ酸投与は控える。高アンモニア血症は肝性脳症を招き、脳浮腫の原因となる。
memo✎
- 急性肝不全ではエネルギー代謝が亢進する。一方で、肝細胞の傷害によりエネルギー利用効率は低下する。エネルギーの過剰投与は病態の悪化を招くため、利用可能なエネルギー基質に沿った栄養素の投与が必要。1日の必要栄養量を満たすような栄養を投与するよりも、代謝を安定化させるべき
- 今後、急性肝不全を対象とした大規模な研究の結果によっては、BCAAの有効性が高まる可能性があるかも
急性膵炎
- 軽症例に対して、予期しない合併症が発症した場合や、5〜7日以内に経口摂取を開始することができない場合以外は、積極的な栄養投与をしないことを推奨する
- 重症でも循環動態が安定したら経腸栄養を優先する
- 栄養投与ルートは空腸留置による経空腸投与(腹腔内に炎症がある状態では小腸よりも胃の蠕動がより低下するため)。空腸に留置できない場合は胃や十二指腸から栄養投与を行ってもよい
- 消化態栄養剤(ペプチド型栄養剤)と半消化態栄養剤のどちらを使用してもよい(memo✎に補足あり)
- グルタミン、アルギニン、n-3系脂肪酸、抗酸化物質を強化した免疫調節栄養剤(インパクト®など)やシンバイオティクスの有効性は示されていない
memo✎
- 急性膵炎では、軽症例は短期間で改善し予後良好だが、重症例は臓器障害や重症感染症を合併するため、死亡率も高い。
- 窒素源がアミノ酸やペプチドからなる消化態栄養剤は、半消化態栄養剤よりも膵酵素に対する刺激性が低く安全であると報告されている 。脂肪を制限した消化態栄養剤は、膵外分泌機能への刺激が低く、症状を軽減するとの報告もある。しかし、合併症・感染症・死亡率に有意差なしとの研究結果もある
中枢神経障害
- 重症頭部外傷では可能な限り早期の経腸栄養を推奨
- 脳卒中に対するグルタミン、アルギニンなどの特殊栄養素の効果は不明なため、使用しない
- 低体温療法中に推奨される特別な栄養療法はない。消化管からの吸収能も低下
高度肥満
• 筋肉量が減ると代謝障害、機能障害が強くなり予後に影響するため、減量しつつ筋肉を保持する栄養管理を目標とする
• BMI 30以上の肥満患者には高蛋白低エネルギーの栄養投与
• エネルギー消費量の60~70%、または20-25kcal/理想体重kg
• 蛋白は1.2g/体重kg
引用・参考元
日本集中治療医学会「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」
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