脂肪乳剤には10%と20%の製剤があるけど、脂肪の量以外に何か違いはあるの?
こういった疑問に答えます。
脂肪乳剤は、水に溶けない中性脂肪をリン脂質で乳化して静脈内に投与できるようにしたもの。
日本で使用している脂肪乳剤イントラリポスは、大豆油を主成分とし、卵黄レシチンで乳化したものです。
イントラリポスには、10%と20%の製剤があります。
- 10%イントラリポスは輸液製剤100mL中に中性脂肪を10g含む脂肪乳剤のこと
- 20%イントラリポスは輸液製剤100mL中に中性脂肪を20g含む脂肪乳剤のこと
この記事を読むことで、「イントラリポス10%と20%製剤の脂肪量以外の違い。投与後の生体内での変化の違い。」をイメージできるようになると思います。
読者さんへの前置きメッセージ
本記事では「臨床の栄養管理を頑張りたいけど、難しくてよく分からないよ」という医療従事者に向けて書いています。
それでは、さっそく見ていきましょう。
脂肪乳剤10%と20%の違い→20%の方が「リン脂質」が沈着しにくい!
結論からいうと、20%製剤の方が脂質異常症が生じにくいというメリットがあります。
10%製剤と20%製剤で同量の中性脂肪を投与した場合、20%製剤の方がリン脂質の沈着が起こりにくく、血清中のリン脂質とコレステロールの値が上昇しにくいことが分かっています。
なぜなら、10%製剤も20%製剤も、乳化剤として使用するリン脂質はほぼ同じ量が含まれているから。
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先に少し触れましたが、リン脂質には乳化といって、油と水を混ざりやすくする働きがあります。
脂肪乳剤イントラリポスの主成分は大豆油。
この大豆油を乳化して、血管に入れても大丈夫な状態にするために、脂肪乳剤には卵黄由来のレシチン(リン脂質)が加えられています。
先ほど話したとおり、10%製剤も20%製剤も脂肪の濃度(脂肪の量)に関わらず、乳化に使われるレシチンの量は同じ(製剤に対し1.2%)。
もし同等の脂肪量を投与するなら、10%製剤ではレシチンが約2倍投与されることになり、10%製剤でリン脂質が沈着する可能性が増します。
上の表をみると、中性脂肪量に対するリン脂質の割合は、20%製剤の方が少ないことが分かります。
投与する中性脂肪の量が同じなら、含まれるリン脂質の量が少ない方が、血中リン脂質の値は上昇しにくいってわけね。
「脂肪乳剤のエネルギー量が自分の計算と合わない…なぜ?」
上の表をみて、そう思った方はいませんか?「脂質1g=9kcal」と単純計算するとエネルギー量が合いません。また、10%製剤と20%製剤でも違いがあります。これは、乳化剤として含まれる「リン脂質」、等張化剤として含まれる「濃グリセリン」もエネルギー量に換算されているためです!
話は変わりますが、脂肪乳剤を生体内で代謝するためには「ゆっくり投与」が基本となります。
脂肪乳剤中の脂肪粒子を代謝するために必要なアポリポタンパクという物質が脂肪乳剤には不足しているためです。
脂肪粒子が正常に代謝されるに、生体内のHDLからアポリポタンパクが転移されるのを待つ必要があり、それに時間がかかるのです。
リン脂質は中性脂肪より長く血中に残存することはわかっていて、乳化剤として加えられたリン脂質の量が多いほど、代謝速度はきわめて緩徐となり、静注後はゆ~くり肝臓に取り込まれることになります。
10%製剤と20%製剤の比較では、10%製剤の投与ではLDL、リン脂質、コレステロールの上昇とともに異常リポタンパク(リポタンパクX)の出現が報告されています。
10%脂肪乳剤を0.1g/kg/時(成人で1000mL以上)で連日投与すると、乳化剤である余剰のレシチン(1.2%含有)が黄疸時にみられる異常リポタンパクとして血中に蓄積し、中性脂肪の分解が遅くなり、脂質異常症をきたす可能性が指摘されています。
血中にリン脂質が蓄積すると、中性脂肪の代謝速度まで下がっちゃうんですね。悪循環ですね。
まとめ
リン脂質の沈着防止、脂質異常症の予防には20%製剤が推奨されます。
参考にさせて頂きました!
1)レジデントのための食事・栄養療法ガイド(日本医事新報社)
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