輸液のきほん第2回目。今回のテーマは「電解質輸液製剤」です。
臨床の場で多く使われている輸液です。
電解質輸液の種類と使用目的を把握しておくと、病態の理解に繋がります。
さっそく始めていきます!
電解質輸液は大きく2つに分類される
輸液は、電解質からみた分類として、等張電解質輸液と低張電解質輸液の2つに分類されます。静脈内投与後に生体内で分布する場所が異なります。
等張電解質輸液は、細胞外液補充液とも言い、その名の通り細胞外液を補充する目的で投与されます。
低張電解質輸液は、維持類液とも言い、細胞内液・細胞外液どちらも補充されます。
どちらの輸液も血漿浸透圧と等張ですが、低張電解質輸液(維持類液)に関しては、電解質自体は低張で、ブドウ糖を加えることで浸透圧を調整しています。
等張電解質輸液(細胞外液補充液)は細胞外に水分補給する
等張電解質の特徴は以下の通りです。別名「細胞外液補充液」というだけあって、投与後はほぼ全て細胞外に補給されます。
- 血漿浸透圧と等張!
- 電解質組成は概ね細胞外液と同じで、K+は含まないか、含有量はわずか
- 投与後はほぼすべて細胞外液(組織間液と循環血漿)に移行
- 生理食塩液(0.9%)は細胞外液よりもNa+濃度が高く、リンゲル液はNa+濃度を下げて、K+などの陽イオンを加えた細胞外液により近い電解質組成。
- 生体に1200mL投与すると、細胞外液へ移動し、生体内分布に従って組織間液:循環血漿=3:1=900mL:300mLに分布
- 周術期などで使用される
分類 | 投与後の分布先 | 電解質 | 主な製品名 | 適応 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
生理食塩液(0.9%) | ほぼ細胞外液 | Na+、Cl-のみ | 細胞外液欠乏・Na、Cl欠乏時 | 投与しすぎると、高Na血症や代謝性アシドーシス(体が正常より酸性に傾く)のリスクあり。 | |
乳酸/酢酸 リンゲル液 | ほぼ細胞外液 | Na+、Cl-、 K+、Ca2+、HCO3-(アルカリ成分) | ラクテック ソルラクトF | 細胞外液の補給・補正、代謝性アシドーシスの補正 | 乳酸は肝臓で代謝されるので肝障害患者への使用は避ける。酢酸は筋肉で代謝される。 |
糖加乳酸/糖加乳酸 リンゲル液 | ほぼ細胞外液 | 〃 | 〃 | 乳酸/酢酸リンゲル液にマルトースやソルビトール、ブドウ糖などの糖を加えたもの。糖濃度は5%。経口摂取ができない場合など、血糖維持が必要な場合。 |
低張電解質輸液(維持液類 1~4号液)は体全体に水分補給する
低張電解質輸液(維持類液1~4号液)は投与後、細胞内液・間質液・血漿のすべてに分布します。
ただ、1~4号液でそれぞれ分布する割合が異なります。
維持液類1~4号液の覚え方ですが、日常臨床で使われるものは、生理食塩液と5%ブドウ糖液の配合で覚えます!これに、他の電解質や栄養成分が加わってできています。
生理食塩液については前項で説明しました。投与後はほぼ全て細胞外液に分布するんでしたね!
では、5%ブドウ糖液はどうでしょうか?
電解質輸液を説明する前におさらいしましょう。
5%ブドウ糖液の体液分布
低張電解質輸液(維持液類)の説明の前に、低張電解質輸液を理解するうえで必要な、5%ブドウ糖液の特徴です。
- 電解質を含まない
- 血漿浸透圧と等張!
- 投与後すぐに代謝されて、生体内での水分比率に従って移動(細胞内液:組織間液:循環血漿=8:3:1)
低張電解質輸液(維持液類 1~4号液)の分類と特徴
維持類液は、1号液と3号液が基本です!!!
私は2号液、4号液が使われているのをみたことがありません…!
生理食塩液分は細胞外に、5%ブドウ糖液分は体全体に分布しますので、2液の配合割合により、体液分布が違います☟
「低張」!「維持液」!ときたら細胞内まで浸透する!と覚えましょう!!
分類 | 生理食塩液 :ブドウ糖液 (5%) | 投与後の分布先 | 電解質 特徴 | 主な製品名 | 適応 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|
1号液 (開始液) | 1:1 (1/2生理食塩液) | 細胞内液 <細胞外液 (1:2) | 1/2生理食塩液が電解質組成の基本。 K+含まない | KN1 ソリタT1 ソルデム1 | 病態不明時の脱水に対する水分・電解質の初期補給 | 細胞外液に約2/3が分布 |
2号液 (脱水補給液) | 1:1~2 | 細胞内液 <細胞外液 | K+含む | KN2 ソリタT2 ソルデム2 | K+をはじめ細胞内電解質が失われる下痢などの脱水症や手術前後に使用 | 細胞外液に多く分布するが、K+やリン酸など細胞内に多い電解質を含む |
3号液 (維持液) | 1:3 (1/4生理食塩液) | 細胞内液 =細胞外液 | K+含む | KN3 ソリタT3 ソルデム3 | 経口摂取が困難あるいは不十分な患者に使用 | 成人が1日に必要な水分・電解質が2L内にほぼ含まれる |
4号液 (術後回復液) | 1:4 | 細胞内液 >細胞外液 | K+含まない | KN4 ソリタT4 ソルデム4 | 含まれる電解質濃度が最も低く、高齢者や乳幼児など腎機能低下患者の術後あるいはK+貯留の可能性がある患者の水分・電解質補給に適している | 細胞内液にやや多く分布するが、K+は含まない |
1号→4号になるにつれて自由水の割合(ブドウ糖液の割合)が多くなり、細胞内へ移動する量が増えます!
■Na+の補給効果:1号液>2号液>3号液>4号液
■水分の補給効果:1号液<2号液<3号液<4号液
■K+フリーの輸液:1号液、4号液
血中のK+濃度が高くなると、不整脈を起こすリスクがあるので注意!
3号液の補足
3号液を約2000mL投与すると、成人が必要な水分・主要電解質(Na+、K+)の1日量を補給できます!また、ブドウ糖約100g補給可能(リプラス3号輸液の場合)。
飢餓状態では体蛋白の異化により蛋白質が喪失していますが(筋肉量低下)、ブドウ糖100g/日の投与で体蛋白異化が約1/2に抑制されるといわれます!
+ビタミン製剤の使用も忘れずに!!!!
ビタミンB1は、各種ビタミンの中でも体内貯蔵量がわずかであり、摂取しなければ最も早期に欠乏します(欠乏症は、ウェルニッケ脳症や代謝性アシドーシス)。そのため、絶食時は早期からビタミン製剤を使用しましょう!
また、維持液といっても1日2000mL投与されたときのNaClは大体4.5g(単純に500mL×0.9で算出)です。これは普段日本人が食事からとる食塩の量よりだいぶ少ない量ですよね。術後などストレス下にある場合は低Na血症に注意が必要です。
3号液2L=生食500mL1本+5%ブドウ糖液3本+KCl注アンプル1本(=40mEq)のイメージです。これでNaCl4.5g含有。
おなじ生食2LだとNaCl18g(2L×0.9%)も含有されています。
4号液の補足
Kフリーで自由水(5%ブドウ糖液)の割合が多く、血管内に残りにくい4号液。別名「術後回復液」と呼ばれますが、必ずしも術後に適した輸液ではないそうです!!!!
術後は抗利尿ADH作用が亢進していて低Na血症になりやすいのです。そのようなとき、Na濃度の少ない4号液は不向きとのこと。
ADH(バソプレシン)は、脳下垂体後部から分泌されるホルモンで、水の再吸収を促し高等張の尿を作ります。血症浸透圧の上昇(細胞外液量の減少)、血圧の低下、交感神経の刺激によってADH分泌は増えます。 ADHの過剰分泌は低Na血症の原因になります。
参考にさせて頂きました!
私は書籍、HPで勉強しました!
2)輸液の基本と根拠(ナツメ社)
3)レジデントのための食事・栄養療法ガイド(日本医事新報社)
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