- 脂肪乳剤の投与速度の目安ってどのくらいだっけ?いつも忘れちゃうな。
- 「脂肪乳剤はゆっくり投与する」と言われるけど、その理由は?遅ければ遅いほど良いの?
- 脂肪乳剤を使いたいけど感染が心配。使用上どういったことに気を付ければ良いの?
こういった疑問に答えます。
脂肪乳剤とは、水に溶けない中性脂肪をリン脂質で乳化することで静脈内に投与できるようにしたもの。日本で使用している脂肪乳剤イントラリポスは、大豆油を主成分とし卵黄レシチンで乳化したものです。
以前の記事でお伝えしたとおり、口から食べられない方や消化管が使えない方に脂肪乳剤を投与するメリットはたくさんあります!
でも、脂肪乳剤ってみためは白い液体。。。そもそも、脂肪を血管に投与するって、なんだか抵抗がありませんか?
安全に、脂肪乳剤を使用する条件に、「適切な投与速度を守ること」「感染に気を付けること」があります。
そこで今回の記事では、投与速度が決められている理由や簡単な投与速度の覚え方、脂肪乳剤を取り扱う上での注意点などをご紹介します。
この記事を読むことで、こんなことが分かります。
- 脂肪乳剤の投与速度と簡単な覚え方
- 投与速度が速い場合に起こる症状
- 感染リスクが高い脂肪乳剤!投与時の注意点と対策について
読者さんへの前置きメッセージ
本記事では「臨床の栄養管理を頑張りたいけど、難しくてよく分からないよ」という医療従事者に向けて書いています。
それでは、さっそく見ていきましょう。
脂肪乳剤の投与速度と簡単な覚え方
脂肪乳剤は「0.1g / kg / 時」以下で投与。「ゆっくり投与」が基本!
脂肪乳剤を円滑に代謝するための至適投与速度
→「0.1g / kg / 時」以下 です!
(静脈経腸栄養ガイドラインで推奨)
「0.1g」というのは、製剤に含まれる脂肪量のこと。
例えば、体重50kgの方に20%脂肪乳剤100mL(中性脂肪20g)を投与する場合、4時間以上かけて投与します。
基本的に、脂肪乳剤は「ゆっくり投与する」ことが基本です!
<脂肪乳剤をゆっくり投与する理由>
脂肪乳剤中の脂肪粒子が代謝されるにはアポリポタンパクというタンパク質が必要です。
通常、食事由来の脂肪粒子(=カイロミクロン)は、腸管から吸収される過程でアポリポタンパクと結合されるのですが、人工的に作られた脂肪乳剤中の脂肪粒子には、代謝に必要なアポリポタンパクが結合されていません。
代謝されるためには、HDLからアポリポタンパクが転移されるのを待つ必要があります。
そのため、脂肪乳剤の投与速度が速いと、過剰な脂肪粒子が血中に停滞してしまうことに…!
脂肪乳剤が効率よくアポリポタンパクと結合するための投与速度として、ガイドラインでは、「0.1g / kg / 時」以下で投与することを推奨しています。
添付文書とガイドラインで投与速度が違う?
薬剤師さんに「添付文書に記載してある投与速度はもっと速い」って聞いたんだけど、本当…?
余談ですが、脂肪乳剤の添付文書に記載されている速度と、日本静脈経腸栄養学会ガイドラインで推奨している速度には違いがあります。
これは割と有名な話です。
【用法・用量】
引用元:イントラリポス輸液の添付文書
イントラリポス輸液10%
通常、1日500mL(ダイズ油として10%液)を3時間以上かけて点滴静注する。なお、体重、症状により適宜増減するが、体重1kg当たり1日脂肪として2g(本剤20mL)以内とする。
イントラリポス輸液20%
通常、1日250mL(ダイズ油として20%液)を3時間以上かけて点滴静注する。なお、体重、症状により適宜増減するが、体重1kg当たり1日脂肪として2g(本剤10mL)以内とする。
添付文書には、「10%液 500mL、20%液 250mL を 3 時間以上かけて点滴静注する」とあります。
脂肪の投与速度に換算すると、「約 0.33g/kg/時」以下。
静脈経腸栄養ガイドラインで推奨している投与速度「0.1g / kg / 時」以下と比べて少しはやいのです。
この速度の根拠を調べてみると、「必須脂肪酸欠乏を予防するうえで、有害事象の発現を抑制し、安全に投与できる速度の上限にあたる速度」だそうです。
脂肪乳剤を有効に代謝することを考えると、ガイドラインで示されている速度で投与した方が望ましいと考えられます。
実はとても覚えやすい!投与速度の覚え方
「0.1g / kg / 時」の0.1gは脂肪の量。脂肪乳剤の量に換算すると…?う~ん(@_@)
私が働く病院の薬剤師さんから教えてもらった、脂肪乳剤の投与速度の覚え方をご紹介します。
実はめちゃくちゃ覚えやすいです。
- 10%脂肪乳剤の場合→体重がそのまま投与速度になります。
- 20%脂肪乳剤の場合→(体重÷2)が投与速度になります。
例えば、体重50kgの方に「10%脂肪乳剤250mLを投与する場合」と「20%脂肪乳剤100mLを投与する場合」を考えてみましょう!
●10%脂肪乳剤250mL(中性脂肪25g)を投与する場合:
体重がそのまま投与速度なので、「50ml/kg/時」以下→5時間かけて投与する。
●20%脂肪乳剤100mL(中性脂肪20g)を投与する場合:
(体重÷2)がそのまま投与速度なので、「25ml/kg/時」以下→4時間かけて投与する。
簡単だわ!
投与速度が速い場合に起こる症状
【脂肪乳剤の投与速度が速い場合の問題点】
引用:メディカルスタッフのための栄養療法ハンドブック(改訂第2版)
- 血中脂質の増加
- 脂肪利用効率の低下
- 免疫能の低下
脂肪乳剤投与時は中性脂肪が直接血中に投与されるため、脂肪乳剤投与後は必ず血清トリグリセリド(TG)値は必ず上昇します。
そのため、投与後は血清TG値が異常高値を示さないか、定期的なモニタリングが必須!
合わせて、脂質代謝に欠かせないアポリポタンパクを供給してくれるHDLの数値もモニタリングしましょう。
血清トリグリセリド(TG)値が300mg/dL以上だと、すでに脂肪乳剤が十分利用されない可能性があります。また、脂肪乳剤投与を開始して、血清TG値が1000mg/dLを越えるような場合は、急性膵炎のリスクもあるので注意です!!
※高TG血症:10時間以上の絶食後の血液検査で血清TG値が150mg/dL以上になると高TG血症と診断されます。
感染リスクが高い脂肪乳剤!投与時の注意点と対策について
投与速度は遅ければ遅いほど良いのかしら?
上記にあげたような副作用は投与速度が遅いほど軽減できますが、投与時間が長くなるほど汚染のリスクは高くなります。
そのため、脂肪乳剤に限ったことではないですが、輸液製剤は衛生的な管理が必須!
脂肪乳剤の投与後は、ルート内に菌の定着が起こりやすいので、使用した輸液ラインを注入開始から24時間以内に交換することが推奨されています。
末梢静脈ルートがあればそちらを優先しますが、CVラインの側管からでも脂肪乳剤の投与は可能です(TPNのメインルートを止めなくても、側注で接触している時間では臨床的には問題はないと言われます)。
基本的には以下を守りましょう!
- 脂肪乳剤の投与速度を守ること
- 無菌管理を徹底すること
- 投与後は必ずラインを生理食塩液で十分フラッシュすること
- (繰り返しになりますが、)脂肪乳剤投与に用いたラインは24時間以内に交換すること
末梢からの長時間投与は、感染リスクもですが、患者さんが束縛感を感じてストレスを感じる要因にもなりますね…!
参考にさせて頂きました!
1)レジデントのための食事・栄養療法ガイド(日本医事新報社)
2)メディカルスタッフのための栄養療法ハンドブック(改訂第2版)(佐々木雅也)
3)イントラリポス輸液の添付文書
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